日本医科大学武蔵小杉病院 土佐眞美子先生 インタビュー(1/2)

日本医科大学武蔵小杉病院 土佐眞美子先生 インタビュー(1/2)

2018年05月28日 00時20分

専門医に聞く帝王切開の傷ケア|安全・簡単ケアでキレイな傷あとに第1回

帝王切開の傷のケア、忘れてしまっていませんか?産婦人科で行われる手術後の傷ケアに詳しい土佐眞美子先生によると、帝王切開後、3人に1人は傷あとが赤く盛り上がる「肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)」や、どんどん広がる「ケロイド」になってしまうとのこと。下着が触れるだけでも刺すような痛みが走ったり、さらには脚にまでケロイドが広がって、歩行困難になったりすることも……。

ケロイドはほうっておくと一生広がり続ける

肥厚性瘢痕、ケロイドは、目立つ以外に何か症状があるのでしょうか?

一般に、帝王切開後、1か月ほどで切開による傷の痛みやつっぱりは落ち着いてきます。
しかし、傷あとが赤く硬くなってきて、かゆみや痛みが現れたら、肥厚性瘢痕の症状が現れてきたと考えてよいでしょう。特に手術後1~3か月くらいで症状が出てくることが多いようです。
さらに進行すると、『チクッチクッと刺さるような』強い痛みが走ります。下着がすれても痛むので、体をゆったり覆うような服しか着られなくなってしまいます。
また、肥厚性瘢痕の状態で放置すると、ケロイドに移行することもあります。
ケロイドになると、赤く盛り上がった部分がだんだん大きくなり広がり続けます。もはや放置は禁物です。
私が治療した患者さんのなかには、過去の帝王切開の傷あとがケロイドになり、そのケロイドが両脚のほうまで広がっていき、うまく歩けなくなって初めて来院した80代の女性もいらっしゃいました。
しかし、退院後からの簡単な予防ケアで、肥厚性瘢痕やケロイドのリスクは下げられることがわかってきました。

帝王切開の傷は肥厚性瘢痕、ケロイドになりやすい

帝王切開でできた皮膚の傷あとが、うまく治らずに、異常な傷あとになってしまうことが意外に多いようですね。

あまり知られていませんが、実はそうなのです。
帝王切開には横に切開する方法と、縦に切開する方法があり、肥厚性瘢痕の発生率は横切開で20%、縦切開で25~35%との報告があります。縦切開では、さらにケロイドにまで発展していた例が2%もありました。
特に下腹部は、肥厚性瘢痕やケロイドになりやすい部位なので、頻度も高くなるのでしょう。
ただし、肥厚性瘢痕やケロイドが生じるかどうかは、手術を受けてみないとわかりません。医師の腕が原因ではなく、同じ医師による手術でも、目立たない傷あとになる人もいれば、肥厚性瘢痕やケロイドになってしまう人もいます。
私のような形成外科の医師が手術をしても、なる人はなってしまうんです。

進行すればするほど長い、痛い治療が必要に

肥厚性瘢痕になったら治療が必要ですか。

はい。最初はステロイド薬のテープを傷あとに貼る治療をします。それではよくならない場合は、患部に直接ステロイド薬を注射するほか、手術で患部を切除してから再発予防のために電子線(放射線の一種)を当てる治療を行うこともあります。
ただし、これらの治療で目立たない傷あとに治すまでには何年もかかる場合が多々あります。また、注射は大変痛みが強い治療です。手術後はまた肥厚性瘢痕やケロイドができてしまうこともあります。
なので、できてしまったら、とにかく早く治療を始めたほうがよいですし、できないように予防策をとることはもっと大切なのです。

(第2回へ続く)

 

【プロフィール】

土佐眞美子(とさ まみこ)先生
現 日本医科大学付属病院 形成外科講師
 
専門はケロイド、瘢痕治療。日本形成外科学会専門医。2006年より日本医科大学武蔵小杉病院にて、産婦人科手術後の肥厚性瘢痕・ケロイドの早期発見、早期治療のための「スカーコントロール外来」を立ち上げ、帝王切開、腹腔鏡手術をはじめとした産婦人科手術後の傷あとケアに携わっている。

最終修正日 2018/06/19(火) 00:26