埼玉県先端産業創造プロジェクト | 医工連携 | 傷痕ケア
ギネ マム株式会社
埼玉県先端産業創造プロジェクト | 医工連携 | 傷痕ケア
ドクターとの付き合いが長い医薬品営業だから生まれる発想で事業化
手術の傷あとケアに着目。対象となる診療科は、産科にはじまり、婦人科、乳腺外科、心臓血管外科、甲状腺外科、小児外科、形成外科、内視鏡手術など多岐にわたる。医薬品営業の経験から新たな 発想で既存品を凌駕する“ありそうでなかった”新製品を生み出す。成約率90%超という営業力も同社の強み。
業界初のはがれにくいシリコーンゲルシート 『レディケア』
分娩件数が減る一方で、帝王切開による出産は5 人に1人の割合に増えている。帝王切開をした人の3 人に1人は傷あとがケロイド、あるいはミミズ腫れのような肥厚性瘢痕に悩まされている。お腹の傷は衣服で隠れて外目には見えなくても、コンプレックスになりやすい。また、かゆみや痛みも伴う。
こうした精神的・身体的な負担になりうる傷あとのケロイド化や肥厚性瘢痕になるのを防ぐ、シリコーンゲルシート『レディケア』を開発したのが、ギネマム代表取締役社長の久保田秀一さんだ。種類が多岐に渡るシリコーンの中でも、同社は、FDA(米国食品医薬品局)で認可された肌に優しくかぶれにくい医療用シリコーンを使う。傷あとをしっかりと保護する独自の形状で、従来の医療用シリコーンゲルシートに比べ、剥がれにくい。傷あとに貼るだけでよく、衣服との摩擦にも強い。利用者からは「抱っこ紐やジーンズが傷あとに擦れてきしむ痛みが和らいだ」といった声もある。汚れは水で洗い流せて、 乾くと粘着力が戻る。約2ヶ月間繰り返し使えるため経済的だ。日本国内で製造から量産管理までを一貫して行う。さいたま市ニュービジネス大賞では、「ものづくりスター賞」を受賞している。
58歳で起業、医薬品営業の実力がものを言う
女性向けの商品開発で起業したことから、社名を産婦人科の“ギネ”、お母さんの“マム”からギネマムとした。2015年9月、久保田さんが58歳の時に創業し、元同僚で医療機関に医薬品の営業をしてきた仲間2人を招き入れた。精力的に全国を行脚し、発売からわずか2年半で44都道府県の主要大学やクリニックを中心に納入先は500以上、成約率は90%を超える。「製品を開発しても売る力がなければ事業は頓挫しかねません」と言う久保田さん自らも営業に奔走する。
起業を決めたのは、前職での産婦人科のドクターとの「1ヶ月後の産後健診では傷あとは綺麗な状態なのに、数ヶ月すると膨らんだりケロイドになったりする人がでてくる」という会話がきっかけ。
『レディケア』を手にギネマム代表取締役社長の久保田秀一
さん(左)と東京慈恵会医科大学産婦人科の岡本愛光教授
とりわけ付き合いが長かった東京慈恵会医科大学産婦人科の岡本愛光教授からも「2回目の帝王切開で、 傷あとが汚くならないようにしてほしいという妊婦さんの願いは切実。忙しくても毎日使いやすいものはないだろうか」という話を何度となく聞いており、 起業を決めた後も、足繁く相談に通った。岡本さんから「いいアイデアだと思う」と言われたことが、 「発想を製品化すれば使ってもらえる」という久保田さんの自信につながった。
これまでにない“はがれにくさ”が好評
従来の傷あとケアは、傷に対して直角に専用テープを貼るタイプなどの市販品が使われてきた。数日おきにテープを貼り替えて、約3ヶ月続けるというものなのだが、貼り替える時に肌に粘着剤が残ったり、かぶれたりすることも多い。かぶれるのが嫌で使うのをやめてしまうことがケロイドになる原因の一つでもある。
他社のシリコーン製品も販売されていたが、値が張る割には粘着力が弱く、数時間で剥がれるものもあり、産後から活発に動き回る人が使うには実用的とは言えなかった。
ある形成外科医が二度目の帝王切開をする妊婦を、テープ群とシリコーンゲルシート群に分け、傷あと悪化の抑制効果を比較した。その結果、肥厚性瘢痕になったのはテープ群が83%だったのに対し、シリコーンゲルシート群では36%にとどまったという。 この報告から、久保田さんは「剥がれにくくかぶれにくいシリコーンゲルシートであれば、毎日使えるからもっと抑制効果を得られるのではないか」と考えた。
臨床データを武器に普及を目指す
「3年前に久保田からスケッチを見せられました」と話すのは、ギネマム創業から参画した学術部長の中村泰久さんだ。「極めてシンプルな構造だが、粘着力を保ちながらも剥がしやすいミリ単位の調整には苦労した」という。製品特許等も取得し、国産のシリコーンゲルシートとして、帝王切開から甲状腺や腹腔鏡手術などのあらゆる傷あとケアに適応を広げる。
実際に『レディケア』 を使った臨床試験をいくつかの施設で実施した。1回目の帝王切開の後に肥厚性瘢痕になったにも関わらず、2回目の帝王切開後に約180日間、「レディケア」を貼った結果、傷あとは比較的目立たなくなった。
1回目の帝王切開で肥厚性瘢痕になった傷あとが、
2回目『レディケア』を使ったところ、悪化を抑制した。
こうした臨床結果が『レディケア』を紹介されて 断るドクターがあまりいない理由と言える。「『レディケア』の推定利用者は帝王切開の7%~10%程度。まだまだこれからです」と、普及に意欲を燃やす久保田さんだ。
『レディケア』シリーズ
《レディケアの使い方》 ・ケースからの取り出し方 ・洗い方 ・貼り方と剥がし方 |